2008年11月18日(火)
腸炎ビブリオは極毛を有するグラム陰性の桿菌で、活発な運動を行い、好塩性を有し、液体培地中に塩化ナトリウムを0.5〜9%の割に含ませた場合に発育が認められ、至適濃度は2〜5%くらいといわれている。また、インドールを産生し、VP反応陰性で、多くの菌株はサッカロースを分解しないが、アラビノースを分解する。遊走は示さない。Vibrio alginolyticusとの鑑別が重要である。腸炎ビブリオによる食中毒は、主として生鮮魚介類・加工品およびそれらと接触した食品を原因食として、6月から9月の間を中心に発生する。患者は腹痛と激しい水溶性の下痢を主症状とし、時には血便を排出するので、赤痢と間違えられる場合もある。食中毒の発生状況は、件数、患者数とも食中毒中、毎年上位を占め、魚介類を生食するわが国では、最も重要視すべき食中毒のひとつである。本菌は海水細菌の一員であるところから、調査対象は魚介類、海水、海底の汚泥或は汽水域の環境が主体であり、これらについで淡水の環境などである。海産物における本菌の分布は、魚類の体表などはもちろんであるが、特に貝類に著しく、約50%以上から分離可能である。また、菌量も6〜8月には104〜106/g、10月においても102〜103/gで、大変多い。
○世代時間 35〜37℃で9〜13分間。
○各種要因と発育との関係
1.増殖温度域 腸炎ビブリオの発育温度域は、下限は10℃付近にあり、至適温度は35〜37℃で、上限は44.5℃である。一般に15℃以上になると、増殖は著しく旺盛になるといわれる。しかし、塩化ナトリウム濃度が適切なときは、5℃でも発育するとの報告もある。
2.PH ブイヨン中における発育PHはPH4.5〜11.0であるが、魚介類ではPH6.0以下の場合は増殖は認められない。また、本菌は0.5%酢酸中では数分間で死滅する。
3.Aw 最低発育Aw0.94
4.耐塩性 本菌は好塩細菌であるため、増殖には塩化ナトリウムの添加が必要である。ブイヨン中では0.5%以上の塩化ナトリウム濃度、上限は一般に8%とされているが、10%でも増殖できる菌株も存在する。また、水道水、蒸留水では死滅するが、井戸水、滅菌水では同じ菌数を維持する。魚介類をはじめ海産物中では、温度条件が整えば増殖可能であるが、そのほか淡水魚、牛肉、七面鳥肉、プリン、牛乳、卵などでも増殖するとの報告もある。
○熱抵抗性(D値) 本菌の熱抵抗性は、一般にサルモネラよりやや弱い傾向にあり、トリプトソイブロス(0.5%NaCl)47℃で0.8分間で死滅、7.5%NaClの場合は47℃で6.5分間で死滅する。トリプトソイブロス(3%NaCl)で53℃で加熱するとPH7.0の場合は、4分間、PH5.0の場合は1.5分間で死滅する。
○食中毒の発生要因
腸炎ビブリオ食中毒の発生要因を表に示した。 腸炎ビブリオによる食中毒の発生要因は、原材料汚染(30.6%)が最も多く、次いで二次汚染(相互汚染)(20.0%),長時間放置(不適切な温度管理、作り置き、前日調理、持ち帰り(19.0%)、調理施設・器具類(18.4%)などである。
| A | 汚染要因 | 発生件数 | % |
|---|---|---|---|
| 1 | 原材料 | 605 | 30.6 |
| 2 | 使用水 | 2 | 0.1 |
| 3 | 鼠属・昆虫 | ||
| 4 | 手指(従業員保菌含む) | 89 | 4.5 |
| 5 | 調理施設・器具 | 365 | 18.4 |
| 6 | 二次汚染(相互汚染) | 395 | 20 |
| B | 生残要因 | 発生件数 | % |
| 1 | 加熱不足 | 44 | 2.2 |
| C. | 増殖要因 | % | |
| 1 | 長時間放置 | 376 | 19 |
| @不適切な温度管理 | |||
| A作り置き、前日調理、持ち帰り | |||
| 2 | 能力オーバー(大量受注) | 87 | 4.4 |
| 3 | 放冷不十分 | 12 | 0.6 |
| 4 | 乾燥不十分 | ||
| D. | その他 | 発生件数 | % |
| 1 | 誤用(加熱用を生食) | 4 | 0.2 |
| 計 | 1979 | 100 |
食中毒事件録(1985〜1993年)
○おわりに
腸炎ビブリオは、海産鮮魚介類に広く分布し、その数は気温の高い春から秋にかけて上昇する。したがって、気温の高い時期には、鮮魚介類における本菌の増殖を抑制し、魚介類から他の食品への汚染を防止することが大切である。まな板は専用のものを必ず用いるべきである。本菌の増殖を抑制するためには、塩化ナトリウム濃度をごく低濃度に保つか、9%以上に保つことが必要である。PH5.0以下、温度は5℃以下に保つと良い。低温、特に凍結温度では本菌の発育は抑制されるが、必ずしも短期間内に死滅するもではないので、冷凍食品に対しては解凍後特別の注意を払うべきである。加熱殺菌できるものでは、61℃・10分間以上の過熱を行う。